最近、発信者の電話番号を偽装し、相手を信用させてお金を振り込ませる、詐欺事件が増えているとのことです。
静岡県内では、警察の代表番号から電話をしているように見せかけ警察官を名乗って示談金名目でお金を騙し取ろうとする事件がありました。(2004年12月11日付の産経新聞より)
NTT DoCoMo は以下のようなページで注意を促しています。
発信者電話番号が偽装されて着信する通話について
携帯電話を通話できなくするウィルス
日本ではなくニュージーランドで発見されたのですが、シンビアンというOSを搭載した一部の携帯が標的になっているそうです。
どうやらこのシビアンというOSは色々と標的にされているようで、携帯のアイコンをドクロに変えたり、スケジュール帳やカメラなど通話以外の機能が使えなくさせたりするウィルスも出回っているとのことです。
シビアンは、ノキア社製携帯電話で多く採用されているとのこと。
ブルートゥース対応機の場合は、ユーザ同士がすれ違っただけでも感染する恐れがあるとか…。
日本でもこのようなウィルスが出回るのも、時間の問題のような気がします。
連載第二十八回目
★負け犬女のキャッシュフロー大作戦が始まった!
2003年11月から翌年2月の間に、福岡市内にあるマンション2軒のオーナーとなり家賃収入を得る身となった私だが、これから私どうしよう?ここへきて、急に私は立ち止まってしまった。
当初の計画では、あと2軒買って月収25万円を確保し、計4軒のワンルームマンションを担保に融資を受けて、さらに買い増しをしようと考えていた。
ところが調べていくうち、中古のワンルームマンションには担保としての価値はほとんどないということがわかった。となると不動産の買い増しは難しい。しかし、毎月の不労所得が25万円あれば、平日の昼間に何か安定した仕事を見つけて、子どもが独立するまで何とか生活はやっていけるだろう。
今の私は不満を感じる状況ではないはずだが、なぜか、消化不良のような落ち着かない気分だ。本当にその生き方でいいのか?もっと夢を追求しなくていいのか?自問自答した。
キャッシュフローは、計画の半分だけは確保できた。今なら残りの資金を他の事に投入することができる。あと2軒買ってしまったらもう冒険はできなくなる。
2003年9月末に会社を辞め、無職になってからしばらくの間は株式投資に集中していたが、毎日株価とにらめっこしている生活というのはあまり張り合いがないものだ。自分が世界中の誰の役にも立っていない気がする。早く自分がやりたいことを見つけよう。
折しも、酒井順子さんの著書「負け犬の遠吠え」に出会ったのだ。
話題になっていたのでタイトルだけは知っていたが読んで驚いた。
30代の独身女性を自嘲気味に「負け犬」と呼び、そのライフスタイルや考え方を論じているのだが、そこにはまさに数年前まで私が漠然と感じていた不安感がそのまま語られている。
ふと、昔の同僚が何気なく言った一言を思い出した。もう7~8年も前のことだ。
「結婚をあきらめたわけじゃない。本当は子どもも欲しい。仕事もプライベートも充実してはいるけれど、自分の老後はどうなるんだろうって考えると不安になる。今の気持ちを一言で言えば、『着地点の見えない夜間飛行』だな。」
彼女は今も同じ会社で同じように働いている。きっと今も同じように、いやもしかしたら前以上に不安を感じているはずだ。思えば、私がマンションオーナーになろうとしたのも、自分の老後への不安感を払拭するためではなかったか。私がこれまでやってきたことを「負け犬」たちのために役立たせることはできないだろうか。
私は常々、「起業するとしたら、自分には何ができるだろう?」と考えてきた。これといった資格や特技があるわけではないし商才もない。好きなことを仕事にしたいとは思うが、とことんのめりこむような趣味もない。
しかしひょっとしたら、マンションオーナーになった経緯そのものがノウハウになるんじゃないだろうか?不動産のプロにはなれないが、株式投資×不動産投資の併せ技なら、私にしか語れない経験もなくはない。これもひとつのノウハウだろう。
女性が自立するためには、まず経済面をしっかりさせることが必要不可欠だ。お金で全てが買えるわけではないが、お金で買えるものはいろいろある。中でも一番は自分の時間だ。自分の時間があればじっくり自分と向き合える。自分を高めることもできる。
女性が経済的に自立する方法のひとつとして、マンションオーナーになることを提案し、できるだけ安くマンションを買うノウハウ、良いマンションの見極め方のノウハウを売ろう。これなら私も誰かの役に立てそうだ。そう考えると、「私の仕事はこれしかない」と思えてきた。
こうして私は2004年8月、『女性のためのマンションオーナー養成塾』を立ち上げ、きらくに合資会社を設立した。まだヨチヨチ歩きのひよっこではあるが、経済的に自立したい女性のためのサービスを順次立ち上げていっている。
福岡市内での飲食店出店、安全で美味しい食べ物を販売するネットショップオープン、自分の商品をネットで販売したい女性が小さくビジネスを始められるバーチャルマンション、自立を目指す女性のためのドミトリ計画などなど、新しい事業が目白押しで、やりたいことが山のようにある。
最近では、ありがたいことに、会社の趣旨に賛同して支援してくださる方があったり、業務提携の話をいただくようになった。また、人的ネットワークも徐々に広がってきている。
初心を忘れず、高い志をもって前進していきたいと思う。 (完)
==最後に=========================
最後まで読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。
何の経験もない私が、由緒ある SOHO’s Club News メルマガにここまで書いてこられたのは、ひとえに、読者の皆様、アドバイスくださった諸先輩方、優秀なスタッフや温かく見守ってくださる支援者の方々のおかげです。また、いつかどこかでお目にかかれるよう、精進してまいります。
そして、最後になりましたが、ここで書くチャンスをくださった、SOHO’s Club 主宰の中村香織さんにこの場をお借りして心からお礼を申し上げたいと思います。中村さん、本当にどうもありがとうございました。
連載第二十七回目
★2軒目のオーナーに
「2軒目探すんですか?」うっしーがあっけに取られている。
「はい。探します。早くキャッシュフローを安定させなくちゃ。」
早速、次の物件を探して現場を見に行く。建物自体は悪くはない。
管理人も常駐している。しかしどこか暗い感じがする。
「どうでしょうね?」と私。
「ぱっとしませんね。」とうっしー。
「ぱっとしないって、どういうことです?」
「この辺りは、道が狭くて曲がりくねって見通しが悪いでしょう?
街灯も少ないから、夜道はかなり暗いですよ。こういう場所、時々あるんですが、僕は好きではありません。」
「なるほど・・・。」私が感じた暗い感じはそれだったのだ。
「じゃ、ここはパスして、次行きましょう。」
次の物件は駅からなんと徒歩10秒。下町のにぎやかな場所にある駅に隣接している。
「これ良さそう!」
「そうですね。これは任意売却いけるかも知れませんよ。ちょっと調べてみましょうか。」
『任意売却』とは、競売入札が開札される前に、持ち主や債権者と話をつけて直接買い取ることである。任意売却ができれば、第一に他の入札者と競争しなくて済む。ずいぶんなストレス軽減である。
しかも、持ち主と直接価格交渉ができる。さらに、競売よりも取引がスピーディだ。ただし、時間的にも技術的にもハードルが高い。なぜなら、債権者全員が納得した上で、競売にかけられている本人と連絡を取り、売買契約書にサインしてもらう必要があるからだ。これはプロの手を借りなければ私には無理だろう。
「それにしても、そんな都合のいいことができるんですか?」
「確約はできませんが、条件次第ではうまくいくかも知れません。あとは僕にお任せください。」
「はーい。」というわけで、うっしーに交渉を任せることにした。
「ではまず予算を決めてください。これは重要ですよ。」
「じゃあ、弥勒菩薩さんにちなんで、369(みろく)万円!」
「了解しました。」
予算とは、諸経費、登記費用その他すべて込みの総額である。
オーナーからはあれやこれやと難しい条件が提示された。しかし、蛇の道は蛇、餅は餅屋、うっしーの交渉テクニックで無事商談成立となった。駅から徒歩10秒、築13年のこの物件は「購入以来、一度も空室になったことがない。」と前のオーナーが豪語する通りの優良物件。
契約書を交わす時に会った前のオーナーによると、
「13年前、新築で買った時は1500万円以上払ったよ。値段が上がったら売るつもりだったのに、上がるどころか、下がる一方。おまけにローンの支払いが毎月8万円で家賃収入が5万円。管理費や税金やら入れると毎月3万円の持ち出しじゃ済まないんだよね。全然割に合わないから、手放すことにしたんだ。」と屈託がない。
こうして2004年3月、私は2軒目のオーナーになった。その他も合わせると、月約15万円の不労所得を確保することができた。
第一の目標は達成したのだが、私はここではたと立ち止まった。
連載第二十六回目
★大家さんデビュー?
入札書を送ったと思ったら、瞬く間に開札日が来た。午前10時にうっしーが結果を聞きに行ってくれることになっている。
11時15分。やはり駄目だったかとあきらめていた携帯が鳴る。
うっしーからだ。
「おめでとうございます!やりましたよ、落札です!」
「えっ?えっ?本当?落札ですか?」
「本当ですよ。なんと入札件数58件です!1万円差の1位!」
入札件数58は、福岡地裁では、歴代2番目ぐらいの多さらしい。
開札は、教室のような部屋で執行官が前に立って、入札書の封筒を一通ずつハサミで開封して並べていく。そして価額の低いものから順番に、ひとつひとつ読み上げていく。最低売却価額の148万円から延々続いて、490万円、500万円、502万円、ときて、最後に私の5,036,083円だったそうだ。
58人目を読み上げ終った時、場内は「おお~っ」とも「ほお~」ともつかないどよめきが上がったという。
「とにかくこんな経験は初めてです。」興奮覚めやらぬうっしーが言う。
「弥勒菩薩さんの仕業に違いない」。まぐれだとしても、こんな芸当が私にできるはずはない。
落札代金の支払いを済ませると、裁判所が登記を変更してくれた。
もうこれですっかり大家さんになるのかと思ったら甘かった。大家さんとしてデビューするまでに、まだ色々と関所がある。管理会社との契約や賃貸管理会社との交渉だ。初めての経験で戸惑うばかりだ。しかし新鮮な体験である。
まずは建物管理会社との契約だ。廊下やエレベーターの管理一切を建物全体で一括契約しているのでこれはやむを得まい。会社の対応もきちんとしていて、スムーズに契約が済んだ。
次に賃貸管理会社というのが出てきた。家賃の集金を代行してくれる会社だそうだ。その他、入居や退去の際の面倒を、一切合切引き受けてくれるという。ふーん、色々あるんだな…と思っていた矢先送られてきた契約書を見て目を疑った。驚くような大胆な内容だ。
まず、契約期間は5年間。入居者との賃貸契約が2年なのになぜ?
入居者が入る時、出る時、それぞれ家賃1か月分の手数料、家賃の集金に家賃の5%手数料と振込手数料が差し引かれる。集金の方法はといえば、銀行の自動引き落としだという。それなら集金を代行しているのは銀行ではないのか。
敷金は管理会社が預かるとあるが何のためだ?2年に1回の賃貸契約の更新料として15,000円?自動更新ではないのか?解約時はいかなる理由でも1か月分の家賃がかかる?解約条項がないよ?ということは、つまり、管理会社の仕事ぶりが悪くて解約する場合でも、違約金をこちらが払わないと解約できないという意味だ。
他の大家さんは、皆、文句も言わずに判をついているのだろうか?
うっしーが教えてくれたところによると、賃貸管理は自分でやれば良いので、必ずしも契約する必要はないという。
良い機会だ。賃貸管理は自分でやろう。そうすれば、早く一人前の大家さんになれるかも知れない。
ようやく手続きが終わって無事大家さんデビューしてまだ日も浅いうちに、私は次の物件を探し始めた。自分のやりたいことを見つけるために、1日も早くキャッシュフローを安定させなければ。
連載第二十五回目
★熱意と執着心の値段
初めての入札で一体どんな価格をつければいいのだろう?まずは、現在の家賃から逆算して利回りを計算しよう。競売物件なら利回り14~15%程度見込みたいところだ。
しかし、今回は立地が非常に良いので、入札件数が多くなるはず。
件数が多いということは、高値がつく可能性が高いということでもある。しかも地下鉄が開通すれば地価が上がるはずなので、不動産自体の価値も上がるだろう。それを当て込んで大胆な高値をつける人がいるかも知れない。
利回りの設定が難しく、悩みに悩んだ。利回りというのは利息とは違う。利息は貸したり預けたお金に対して何%つくか?という計算をするが、利回りは、投資したお金が何年で回収できるか?という考え方がもとになっている。つまり、利回り10%なら、投資金額が10年で回収できて、11年目以降に入ってくるお金が全て収益ということになるし、利回り20%なら5年で回収できる。
利回りは、最低10%は欲しいが、高く設定し過ぎると勝てない。
11%にしよう。家賃は56,000円。うち2割はマンションの管理費、修繕積立金や毎年の固定資産税などの経費として差し引いた後の手取り額を11%の利回りでまわすという意味である。そうすると計算式は下記のようになる。
毎月の手取り収入=56,000×0.8=44,800円
年間の手取り収入=44,800×12ヶ月=537,600円
利回り11%でまわす場合の投資金額=
537,600÷0.11=4,887,272.7≠4,887,273円
ということは、私にとっての適正価格は、4,887,273円ということになる。ここまでは誰もが考える利回り計算だ。さてこれからが問題だ。上乗せするか?差し引くか?どちらにしても500万円仕事。
ここまで来たら中途半端なことはしたくない。「この値段で駄目ならしょうがない」と思えるだけの思いを込めたい。
しかし、考えても考えても、答えが出ない。だんだん疲れてきた。
限界だ。証券会社から来た書類や、通帳や、とにかくそこらへんにあるものを手当たり次第に持って車を走らせ、宇佐神宮に向かう。
こうなったら神頼み、ではない。無神論者の私が、唯一頼りにしているのは、宇佐神宮の向かい側に祀られている弥勒菩薩さんだ。
この弥勒菩薩像は、明治時代の排仏棄釈の折、危うく取り壊されそうだったところを、信者たちが隠して難を逃れたのだという。
弥勒菩薩とは位の高い仏様で、本来ならば立派なお寺に本尊として祀られていてもおかしくないのだそうだ。しかし、歴史の悪戯で、今はひっそりと祀られている。宇佐神宮には、たくさんの人が観光バスでやってくるが、すぐ向かい側の弥勒菩薩さんにお参りする人はいない。
「だからこそ、この弥勒菩薩さんを頼ってやって来る数少ない者には大きな力を貸してくれるのだ」と、以前勤めていた会社の社長が教えてくれた。その会社の名前はミロクである。だから私は、弥勒菩薩さんには何か縁のようなものを感じるのだ。
何かあると、お供えの菓子を持って弥勒菩薩さんにお参りに行く。
不思議と、弥勒菩薩さんにお願いしたことは全て叶ってきた。非科学的かも知れないが、私は弥勒菩薩さんのおかげだと信じている。
ところで、ミロクの社長は易学の好きな人である。易学によると、私の数字は‘7’である。‘7’の人は‘天地人(てんちじん)’だという。そして‘天地人’の持つ意味は、「‘7の人’ががんばっていると、それを見て周囲の人が助ける、その様子を見て、天が助ける」ということなのだそうだ。
だから私は今回、値決めをするにあたり、‘7’にこだわることにした。ちなみに自分の数字は、生年月日の数を全て一桁になるまで足し込んで出す。私なら1964年9月14日を分解して足していくと、最後は‘7’になる。
1+9+6+4+9+1+4=34
3+4=7
私は弥勒菩薩さんのそばの駐車場に車を停め、証券会社の一覧表を取り出した。私が所有する株式銘柄や社債、外国債、金融商品などの金額一覧である。その中から端数が残っているものを上乗せすることにした。その他に、福岡まで1回行かずに済んだ時のJR代、財布に入っていた現金、他からたまたま入った臨時収入などを全部拾い出してみることにした。
2003年11月17日現在。
外貨MMF 18,047
MMF 171
信用金庫口座開設 100
福岡までのJR代 6,000
財布に入っていた現金 54,492
臨時収入 70,000
────────────────────
小 計 148,810
そうだ、この金額を上乗せしよう。これが私の「物件に対する熱意と執着心」の値段ということにすれば納得がいく。これを、利回り11%で計算した4,887,273円と足してみる。
4,887,273+148,810=5,036,083
試しに、この金額を一桁になるまで足してみる。
5+0+3+6+0+8+3=25
2+5=7
‘7’。私は納得して、運転席で入札書に金額を書き込んだ。
弥勒菩薩さんに手を合わせる。「これで落札できたら、私の人生が何か変わりそうな気がします。どうか私に力を貸してください。」
連載第二十四回目
★運命の出会い?
それまで、福岡県といえば明太子しか思い浮かばなかった私だが、改めて競売物件探しをしてみて驚いた。住みやすい町のようだ。
不思議なくらい交通の便が良い。どこからでも20~30分で市内中心部へ行け、仕事も買い物も食事もできる。職住接近の町だ。
地下鉄網が発達しているところは札幌とよく似ている。違うのは、ボイラー室の有無ぐらいか。札幌ではボイラーに関する知識がないことがネックだったが、福岡ならボイラーの心配はしなくていい。福岡市内なら、イザという時は駆けつけることもできる。札幌よりリスクがふたつ少ない。私はやおら乗り気になった。
ふと見た物件に目が留まった。築9年の比較的新しい物件だ。駅から遠いのが難だが、最低売却価額が148万円とは破格の安さだ。新しいのになぜこんなに安いのか?何か欠陥でもあるのだろうか?そうだとしても、競売初挑戦の私には十分だろう。
3点セットを繰返し読んでみる。6階の角部屋。高級住宅街の一画にあり、一部上場企業の社宅として借り上げられている。管理費の滞納もない。非のうちどころがないと言っても良いほどだ。不審な点が全くないことが、却って私を不安にさせた。
何か大事なポイントを見落としているのではないか?という危惧を抱きながら、うっしーに電話してみる。
「今週の642号が良さそうですけど、どう思います?」
「これはいいですね。この辺りは今、地下鉄の工事中で、もうすぐ開通するんです。ひょっとして駅の近くだったらラッキーですよ。よくこんな物件を見つけましたね。」
「じゃあ私、入札します。」
「えっ?!ホントに入札するんですか?」
「冗談だと思ってたんですか?良い物件って言ってたでしょう?」
「いやー言いましたけど…しますか?…ホントに?」
「すると言ったらするんです。」
「でも、リスクが……」
「リスクを恐れていたら何もできないでしょう?」
一向に埒があかないので現地を見に行くことにした。見て驚いた。
建設中の駅はマンションの本当にすぐ目の前なのだ。駅の入口は、もうほとんどできかけている。マンションのエントランスまでは、ほんの10メートル。雨降りでも傘がいらない距離である。
「ここなら、2軒分の資金を投入してでも落札するべきですよ。」
慎重派のうっしーが諸手を挙げて薦めている。何とか落札したい。しかし、こんなに恵まれた立地条件なら欲しがる人は多いはずだ。激しい競争になるだろう。
入札価額を決めないといけないが、いくら考えても答えが出ない。他の人より1円でも高ければいい。他の人はいくらをつけるのか?
「最後の最後は、執着心ですよ。」といううっしーのアドバイスを反芻する。チャンスは1回きりだ。
悔いの残らない値段をつけたいが、悔いの残らない値段とは果してどんな値段だろう?
連載第二十三回目
★札幌の物件
「実は今年から、競売物件の情報を、インターネットで手軽に検索できるようになったんですよ。」
「それ、本当ですか?」
「はいはい、本当です。URLを教えますので見てみますか?」
「もちろんです!」
それまでも、どこかの不動産業者が、競売情報をネットで公開しているのは知っていた。しかし業者によって抜粋された情報なので、どこまで詳細な資料なのか判断がつきにくかったのだ。ところが、今回うっしーに教わったのは、全国の主要都市の裁判所がひとつのサイトに情報開示するものである。これはかなり期待できそうだ。
そのサイトは『不動産競売物件情報サイト(BIT)』といって、誰でも簡単に、競売3点セットを閲覧することができる。競売3点セットというのは、さっき裁判所で、他の閲覧者と奪い合うようにして探した資料のことだ。競売物件に関する詳しい情報が30ページ程度のファイルにまとめられている。
物件の所在地、マンション名、広さ、間取り、築年数、痛み具合、建物の外観写真、室内の写真、現在人が住んでいるのか、それとも空き家なのか。住んでいるとすればどんな人物か?などを裁判所の執行官が綿密に調査している。次に、その物件の評価人である不動産鑑定士が、所在地は駅から何メートルで、周囲は商業地か住宅地か。今後発展しそうな場所か衰退しそうか?などを考慮して、土地や建物の価値を客観的に判定する。
その後、『競売ならではの値引き』をして、最終的に最低売却価額(入札する際の最低ラインの価格)を決定する。最低価額決定までの過程が全て明らかにされている。
3点セットには、それら物件に関する情報と、最低売却価額が書かれているのだ。入札する人や業者が知ることのできる情報はそれが全てだ。3点セットに書いてある情報を読みこなして、入札するかしないか、いくらで入札するかを決定しなければならない。つまり3点セットを上手に読めるかどうかで、物件の価値の見極めの巧拙が決まるのだ。
しかし、3点セットは専門用語が多く小難しい。しかも今までは、その都度、裁判所に足を運ばないと読むことができなかった。だがこれからはネットで簡単にダウンロードできるのだ。これなら全国の物件がいつでも簡単に探せる。まるで夢のようだ。
北から札幌、東京、水戸、大阪、福岡の5箇所が公開されている。
早速あちこち物色してみる。東京大阪は地価が高いので、最低価額も高い。価格的に手が出ないし利回りも悪い。仮に地価が2倍だとしても家賃は2倍にはならないから、コストパフォーマンスが低くなる。素人の私は地価の安いエリアで優良な物件を探そう。水戸は何県にあるのか、日本地図を思い浮かべる。位置は何となくわかるが、県名が出てこない。そんな縁のない土地に投資してはいけないだろう。
残るは福岡と札幌だ。当時、私はまだ一度も福岡に足を踏み入れたことがなく、どんなところなのか全然知らなかった。だから関心もなかった。北海道好きな私は、まず札幌地裁の物件を探した。
札幌市内で駅から徒歩5分、最低価額200万円を目安に探す。あるある。札幌は地下鉄が発達しているのだろうか。それとも駅数が異常に多いのかと思うほど、駅から5分の物件があるのだ。ただ、築15年以上のものが多い。そして、どの部屋の間取り図にも大抵半畳程度のボイラー室がある。寒冷地仕様の暖房設備だ。しかし、とにかく入札を体験してみたい。札幌地裁に電話すると、執行官室につないでくれた。
恐る恐る「平成16年○○号に入札したいのですが…」と言ってみる。女性の執行官が「入札されるのは構いませんが、競売物件にはリスクもありますので、慎重に検討してから入札なさった方がいいですよ。」と親切に忠告してくれる。
私は、以前アパート購入を考えた時のことを思い出した。これは私の仮説だが、賃貸住宅あるいは建築物にとって、築15年というのは、ひとつのターニングポイントだ。特に外壁や水回り。ぎりぎりまで我慢したけれど、これ以上放置すると通常のメンテナンスでは修復できない臨界点なのではないか。もちろん、まとまった費用も必要だろう。そんな気がしてならない。
しかもこの物件は、権利関係がどうも不自然だ。室内の写真を見ると、入居者は女性のようだが、これまで家賃を払っていない。どうやら、持ち主は誰かから借りたお金が返済ができていないために、利息代わりにお金を借りた相手の知り合いの女性を入居させているようなのだ。3点セットから、そんな事情が何となく読み取れた。
人のプライバシーを詮索するつもりはないが、入札する以上は最悪の事態を考えておく必要がある。この入居者に家賃を請求したら、すんなり払うだろうか?おそらく無理だろう。札幌までわざわざ、集金に行くわけにもいかない。これはリスクが大きいと言わざるを得ない。札幌は一旦保留にしよう。
そこでついに私は福岡の物件に目を移すことにした。
連載第二十二回目
★百聞は一見に如かず
私は自分が書いたメモを読み上げた。
「フレ○ション大分。JR大分駅から徒歩15分。バスなら1駅。バス停から3分。周辺は閑静な住宅街で環境良好。大通りまですぐだが、1本奥なので静か。国土交通省宿舎、保育所隣接。徒歩3分に大型スーパーと大型PC専門店。徒歩4分に内科、歯科、教会、和裁学校。徒歩5分に公園。室内はフローリング、エアコン付き。東向き、オートロック、管理人室あり。自転車置き場あり。1K、押入れ1間分あり。バス・トイレは別タイプ。管理会社は東○コミュニティ、担当の○藤さん10月20~21日は福岡出張。管理費4300円。修繕積立金5380円。以上です。どうでしょう?」
「なるほど。なかなか良さそうじゃないですか。」とうっしー。
「ええ、そうなんですよ。でもね…隣にある公務員宿舎とずいぶんくっついて建ってるんです。ベランダ同士が向かい合ってるような感じで見晴らしは良くないようです。それと、建物の色がびっくりするような変な青色です。」と私。
「う~ん。そうですか。ところで、郵便受けはありますか?」
「ありますよ。目の前に。それが何か?」
「何個ぐらいありますか?」
「えーと、9×8階で72個あります。」
「72部屋あるってことですね。それじゃあ、チラシがいっぱいになってる郵便受けは何個ありますか?」
「は?チラシ?1,2,3…8個はチラシでぎゅうぎゅうです。」
「72部屋のうち8部屋が空室ってことですね。うーむ…。」
「それがどうかしたんですか?」
「いや…、今の時点で空室率が10%を超えてるってことは、将来建物が古くなれば、もっと空室が増える可能性があります。近所に新しいのができると、若い人はそっちに行っちゃいますから。」
「ああ、なるほど!そういうことですか!」
これがプロの目で見るということか。
「空室が多いということは、人気のないマンションということで、家賃を下げて入居者を探すことになります。そうなると将来は家賃が3万円ぐらいに下がるかも知れませんね。」
今は家賃が36000円。管理費と修繕積立金を合わせると約1万円だ。つまり手取りは月約2万円だ。年間24万円。250万円で落札したとして利回り9.6%だ。諸経費もいるだろうから、この時点で最低10%はないとまずいのではないだろうか。そう考えると、当初安いと思われた最低売却価額182万円は割高感がある。
この物件は私には向かない。今回は見送ろう。
それにしても、ものすごい労力だ。こんなことばかりしていたら、疲れ果ててしまうだろう。不動産関係の本に競売は何かと大変だと書いてあったが、なるほどこういうことか。ぐったりしていたら、うっしーが一言。
「実は今年から、インターネットで手軽に検索できるようになったんですよ。」
地獄で仏。渡りに舟。暗闇に一筋の光明。天は私に味方した!?
連載第二十一回目
★裁判所初体験
ガラス貼りの閲覧室。壁一面の本棚に格納された紙製のファイル。
背表紙には「平成16年(ケ)○×号」と書かれている。平成16年はわかるが、(ケ)とは一体何の意味だろう?室内には難しい顔で調べ物をしている男性がひとり。スーツではなくスポーツシャツを着たパーマ頭は、どう見てもサラリーマンではなさそうだ。
私は大分市内で手の届きそうな物件を探した。あったあった。最低売却価額182万円のワンルームマンション。わかったような顔でファイルをぱらぱらめくってみても、土地の図面や計算式だらけでさっぱりわからない。意味がわかるのは、せいぜい間取り図と室内写真ぐらい。
先の男性は、私がどんな物件を見ているのか気になるらしく、チラチラと横目でこちらを伺っている。そこへ老夫婦が入ってきた。私と同じレベルらしく、わいわい言いながら、書類をひっくり返す。
男性は嫌な顔をして机の上に積み上げていたファイルを自分の方に引き寄せた。
だんだん疲れてきたので、目星をつけた物件の書類をコピーして、早々に退散することにした。室内に備え付けのコピー機がある。白黒が1枚40円。カラーが80円だったろうか。えらく高いなあと呆れつつコピー機の前に立つ。ファイルの中身をばらすと、A4の書類やA3の図面がごちゃごちゃになってしまった。欲しいページをコピーした後、大きさも向きも不規則な書類を正しい順番で戻すのは、難儀な作業だ。これでは裁判所の管理も大変だろう。せめてもう少しシステマティックにできないものか。うんざりして裁判所を後にした。
裁判所近くの、美術館の1階にあるカフェでランチをする。食後のコーヒーを飲みながらコピーした書類に目を通す。物件はここからそんなに遠くないはずだ。自分の目で現地を見てみよう。警察署の駐車場に停めていた車をそそくさと出して、大分駅近くの駐車場に停めなおす。駅のインフォメーションで周辺地図をもらい、時計で時間を見ながら東に向かって歩き出した。
早足で15分ほど歩くと、ようやく物件のある町の名前を見かけるようになった。バスの1区間は意外と長い。しかも、バスの運行は渋滞や風雨に左右される。大分駅からバスで1区間というのは一見良さそうだが、実はそんなに良い立地ではないのかも知れない。
裁判所の書類には、所在地は、バス停から徒歩3分と書いてある。
3分以内の範囲内をウロウロ歩くがなかなか見つからない。やっと見つけた時には、汗びっしょりだった。
物件の前に立ってみる。大通りから1本奥まっているので、意外と静かだ。ここの住人は学生が多いのだろうか。自転車置き場に10台以上の自転車が乱雑に置いてある。そういえば、競売に出ている部屋も、住人は大学4年生と書いてあった。ということは来春には新しい入居者を探さないといけないのだな、と疲れた頭で必死に考える。とにかくこの建物の1階の奥から4部屋目だ。
近隣は閑静な住宅街で、落ち着いた感じの老婦人が散歩している。
すぐ隣の国家公務員住宅はえらく密接している。そういえばさっきコピーした室内写真の窓には、向かいのベランダに干した洗濯物が写っていた。
この物件は良いのか悪いのか。判断に困ってうっしーに電話する。
「あのー、私さっき大分地裁に行って来たんです。」
「はいはい、そうですか。すごい行動力ですね。で、どうでした?」
「良さそうな物件のコピーを取りました。」
「ほうほう。なるほど。」
「で、今その物件の前にいます。」
「はあ?」電話の向こうでまた呆気にとられている。
「それでね、ちょっと状況を報告しますから聞いてもらえますか?」
「は、はい、どうぞ。」
私は自分が書いたメモを読み上げた。